「ストーリーテリング」という言葉をビジネスの場面でよく聞くようになりました。どうも使われすぎているわりに、意味は曖昧で、すでに時代遅れなワードと感じる人もいるかもしれませんが、実際には小売業にとって非常に強力なツールです。
すべての小売業者には語るべきストーリーがあります。創業の経緯、業界に参入した理由、稼ぎ頭になったビジネスへの熱い思いなど、さまざまです。
これらのストーリーは、創業者であるあなたにとってのみ重要なのではありません。スタッフやお客さまの心を動かし、ブランド支持者のコミュニティを開拓します。彼らはあなたのストーリーを後押しして支えてくれるのです。
ストーリーテリングには科学的な力もあります。人の脳は、ストーリーそのものだけではなく、その背後にある人間の感情も読み取ります。他者の考えや感情を理解することで、共感ができるようになります。そしてリアルな感情的なコネクションが生まれ、これが信頼に、そしてゆくゆくは利益へとつながっていきます。ですから、あなたや会社にとって独自のブランドストーリーを構築することは、とても重要です。
もしあなたがブランドの背後にあるストーリーについてまだ考えたことがないなら、なぜそれが重要なのか、どうやって自分で取り組めばいいのか、これから見ていきましょう。またこの記事では強力なブランドストーリーをもつ小売ビジネスの事例もご紹介します。
ブランドストーリーとは何か?
まず,ブランドストーリーがどういうものか理解する必要があります。これは,たんにWebサイトに載せる創業秘話だけにとどまりません。
ブランドストーリーは、あなたがだれであり、何を象徴しているかを示します。お客さまがブランドと接するすべてのステージ(インストア、オンライン問わず)をセットします。
「ブランドストーリーは、スタッフとお客さま双方に向けて会社の目標を定めるものです」とブランディング・マーケティングエージェンシーMESHのCEOであるTaylor Bennettは説明しています。
ブランドストーリーの重要性
PR会社Orndee Omnimediaのマネージングディレクターを務めるAlexandrea Merrellは,ブランドストーリーの重要性を強調しています。「現代マーケティングにとって不可欠です」と彼女はいいます。「少し前までは、消費者が気にするのは価格と機能だけでした」
今日、消費者は価格や購買条件以外のものに注目しています。
「消費者は、自分らしさを表現できる意味合いやバックストーリーとのつながりを求めているのです」
Merrellは「小売業者はターゲットとするマーケットを特定し、相手を引きつけるようなストーリーを作り上げて、語り続けるべきです」といっています。
「ブランドストーリーは、会社と顧客、一般大衆とをつなぐエモーショナルな関係性を生み出すメッセージです」とAstonish Media Group社長のPaula Conwayはいいます。「強力で優れたブランドメッセージは、世間に浸透しやすく、そのブランドを試そうともしなかった人々の関心を引きつけ、好意を生じさせます。」
優れたブランドストーリーがあれば、大きい予算のない小規模な小売企業であっても新規顧客を引きつけることができます。
「正しいやり方をすれば、商品を通してマジカルな絆や関係性を構築することが可能です」とBennettは述べています。「効果的なブランドストーリーなら、売上を伸ばすだけでなく、会社をより素早く成長させることができ、ブランド体験を育成するようなカルチャーを生み出せるのです。」
「効果的なブランディングは、消費者があなたのブランド(もしくは競合)から購入することを納得させます」とブランド開発・PRエージェンシーFK Interacitveの共同創設者であるCassandra Rosenはいっています。「もし彼らがあなたから購入した経験がないとしても、ブランディングと語り口によってその気にさせることができるのです。」
ブランドストーリーの作り方
自分なりの「WHY」を定義する
ブランドストーリーを手がけるときは、つねに行為の背後にある「なぜ」からスタートします。たとえば、Nordstromの「WHY」は良いカスタマーサービスの提供であり、prAnaの場合はサステナビリティです。自分の「なぜ」を発見するための手がかりとなる質問がいくつかあります。
- なぜわたしたちは存在しているのか?
- わたしたちはどのように世界に貢献できるか?
- わたしたちのミッションとは?
- 自分のビジネスへのモチベーションは何?
そもそもなぜ自分のブランドが存在しているのか、考えてみましょう。「一歩下がってみて、商品ではなくブランド自体の目的を探ってみてください」とBennettはいいます。
ブランドストーリー構築の初期段階で彼が勧めるのは、業界に参入した際の情熱を呼びさますことです。
ストーリーは画期的なものである必要はありません。
「多くの魅力的なブランドストーリーの出発点は、欲しいものが見つけられなかったので自分で始めた、というものです」
しかし、「なぜ」を理解するのはむずかしいかもしれません。とくに、お金を稼ぐことがおもな動機だった場合には。
「人々はあなたを儲けさせるために商品を買うのではありません」とRoseはいいます。“彼らが探しているのは,個人的または職業的に抱えている問題の解決策です。もしくは,自分たちの生活をより豊かにしてくれるものを探しています。あなたは小売企業としてそれらの要求にどう向き合うかを考え出す必要があります。そして彼らが自分の決断や自分自身を心地よく感じられるようにしてあげるべきなのです」
まだむずかしいですか? MerrellはTシャツビジネスを例として取り上げています。キャッシュを得るためにオンラインでTシャツ販売をするストーリーは刺激的なものではありません。しかし、新しいブランドストーリーを導入することは可能です。Tシャツ販売事業のためのブランドストーリーとして、Merrellは次のような提案をしています。
「わたしは地元にある猫の保護施設に食べ物を寄付していましたが、もっと積極的にサポートしたいと思うようになりました。YouTubeでかわいい仕草やおもしろい動きをする猫の動画が人気だと知って、それをTシャツにしたら人気が出るんじゃないかと考えました。最初に5つのデザインのTシャツを制作し、利益の20%が猫の保護施設に寄付されるとアナウンスしたところ、とても反響があったのです。今では、月末になると1ヶ月分の寄付金額をWebサイトに記載して、SNSに保護施設の写真をたくさんアップしています」
これが、ブランドに消費者が集まってくるストーリーです。「あなたの情熱が理解できれば、彼らはその一部になりたいと願うのです」とMerrellは説明します。
商品を理解する
ブランドストーリーを知るには、商品の役割を理解する必要があります。商品との関連性がないブランドストーリーでは、ファンベースを増やすことはできても、売上にはほとんど反映されません。
Conwayは「商品への自覚の欠如」がストーリー作成における最大のミスだといいます。「メルセデスをキアと同じ売り方で売ることはできません。両方とも車である点は同じですが、質、パフォーマンス、体験への期待値や価格ポイントが異なります」
ブランドストーリーに持ち込む商品のポイントを理解するために、Conwayは以下の質問をすることを勧めています。
- 自社商品の品質と価格ポイントは?
- 商品はどんな問題を解決するか? またはどんな気分を消費者に与えるか?
- 競合の商品との違いは何?
Merrellはまた別の例を挙げてくれました。
「もしあなたがおばあさんのレシピと庭の野菜を使い、家のキッチンで作ったパスタソースのブランドを立ち上げたとしたら、そのソースは自然志向あるいはオーガニックの商品であると仮定できます。しかし現在大量生産で添加物や化学物質がたくさん入っているものを販売しているとしたら、バックストーリーと現状には乖離があり、消費者にとって問題です」
こうしたミスを犯してしまっても、まだ立て直しは可能です。以下のChipotleのCMを参考にしましょう。彼らは大量生産の添加物商品というミスを自分たちでは犯していませんが、問題に対して消費者をサポートする姿勢を見せています。
オーディエンスを理解する
ブランドストーリーを構築するにあたって、だれに向けて語るのかを最初に理解する必要があります。ブランドストーリーを始める際の3つめの要素として挙げられるのは、ターゲットオーディエンスを知ることです。彼らのパッションとペインポイントを理解することで、ブランドストーリーをオーディエンスの生活にフィットさせる方法が見つけやすくなります。
Conwayによる自問セットがこちらです。
- 消費者があなたの商品を購入しない場合、何が失われることになるか?
- 現在の顧客はだれか?
- 理想の顧客像とは?
理想とする顧客像の絞り込みは大変かもしれませんが、共感を得られるブランドストーリーを造形するために欠かせません。多くの小売企業は、直接的なターゲットに向けて語りかける代わりに、全員に向けてアピールしようとします。
「対象を『全員』にしても、得られるものはほとんどありません。すべての人に向けた商品などめったにないのですから」とConwayはいっています。「対象が幅広いというのは問題ないのですが、広すぎると逆に消費者の興味を失います。商品のことをつねに気にかける必要があります。リアルに関心をもっている消費者がだれなのか考えてください」
「すべての人を相手にするべきではない」という考えに賛同するRosenは,大規模なファンベースを抱えていない小規模事業者にとって理想顧客の特定は試練になることを理解しています。「そのような場合には、まず内輪で始め、あなたが支持する価値をリスト化します。そして、その価値や理想を魅力に感じてくれそうな消費者タイプを考えましょう」と彼女は提案します。
理想顧客を理解して共感するだけでは十分ではありません。売上につながる実利的なコネクションを生み出すには、自分の情熱を証明し、ブランドストーリーを実践することが求められます。
「『一番ビッグなTシャツメーカーになりたい』というのは、人が支援したくなるような目標とはいえません」とMerrellはいいます。「そうではなく、『製造工場周辺のコミュニティを刷新して活気を取り戻すために500人に仕事を提供したい』というべきです。これなら、人はサポートしようという気になり、商品の購入によってこの目標を支援しようと思います」
ブランドの構築方法:ストーリーを実行すること
ブランドストーリーを作成することと、それを小売ビジネスのあらゆる領域で実践することは、まったく別の作業です。すべてのインタラクションが重要となり、すべてのインタラクションにおいてブランドストーリーが息づいている必要があります。
「売上につながるブランドコミュニケーションは数秒が勝負です」とConwayはいいます。「ブランドが表明するものが1行で、またはロゴを見ただけで、明確に伝わらなければ決定的な失敗となるのです。」
「ブランドが表明するものが 1 行で、またはロゴを見ただけで、明確に伝わらなければ決定的な失敗となるのです」
一貫性をもつこと
ストーリーのメッセージに一貫性がないと、意味が薄れてインパクトに欠けます。ブランドストーリーには、すべてのチャネルでターゲットオーディエンスの共感を得られるよう、一貫性のあるコミュニケーションが求められます。
あらゆるインタラクションにおいてブランドが代表される必要があり、たとえば以下の領域についても検討すべきでしょう。従業員、ストアのデザイン、SNSマーケティング、Webサイト、ロゴなど。
また同時にこれらのチャネルをブランドストーリーを体現するために活用すべきです。「バックストーリーに妥当性があり、それを積極的に伝えていきたいという姿勢を見せる必要があります」とMerrellはいいます。「SNSを通じて、人々はあなたが当初のビジョンに従って動いていることを確認したいのです」
商品開発においてもこれらのことを念頭におきましょう。「異なるブランドスタイルの商品をいくつも作成するのは避けたほうがいいです」とRosenはいいます。「ブランドのすべての要素(ストーリーの語りやビジュアル)には明確な目的が必要です。商品はそれぞれを支え合うべきで、互いに棚のスペースや注目を奪い合うべきではありません」
信頼できるブランドストーリーであること
消費者は賢いので、偽物を遠くからでも見分けることができます。そのため、ブランドストーリーはあなた自身やブランド、商品を本当に反映したものでなければなりません。
「潜在顧客は一夜漬けの広告やセールスコピーをすぐに見抜き、あなたから買おうとはしません」
「信頼度の足りないブランディングは、おもにあなたが自身のビジネスをよく理解できていないか、説明するスキルがないことに起因します。または顧客をしっかり理解できていないかです。」とRosenはいっています。最初に基礎を築くことが何より重要なのです。
ブランドストーリーをドキュメント化すること
一貫性と信頼性のある個性的なブランドストーリーができたら、それをドキュメント化して、従業員やお客さまが参照できるようにします。これが、さらなる成功に結びつきます。
ブランドストーリーとガイドラインをドキュメント化することで、従業員の足並みがそろい、ストーリーの誤解や伝え間違いを防ぐことができます。店舗のサインのフォントに至るまで、すべての要素はブランドストーリーの伝達に不可欠なので、ドキュメント化されたガイドラインはビジネスのあらゆる面を統一するための資料として役立ちます。
「ビジネスオーナーにとってストーリーは自明のものかもしれませんが、ビジネスが拡大していくにつれ、あなたのブランドを理解するようスタッフを教育することが必要になります」とRosenはいっています。「彼らがビジネスのミッションとビジョンを明確に描けるように気を配りましょう」
ドキュメント化されたブランドストーリーはつねに同じわけではありませんが、大まかな指針として以下のものを含みます。
- ブランドストーリーの「始まり」「中間」「終わり」
- ロゴ、フォント、ビジュアルスタイルのガイドライン
- ブランドのボイス&トーン
- ブランドスローガン
- ミッションとビジョン
- ブランド価値
ブランドストーリーのドキュメントは、とくにデザインやマーケティング領域で外注が発生する場合に威力を発揮します。「ストーリーが明確化できたら、クリエイティブになって、タイポグラフィやカラーリングによってコミュニケーションを推進しましょう」とRosenはいいます。
「自分が経験を積んだデザイナーでないなら、ブランドのエッセンスを表現する本質的なストーリーとビジュアルを創造できるパートナーを見つけましょう。そしてお客さまが確実にあなたに信頼性と価値を見出せるようにしてください」
優れたブランドストーリーの事例
さて、ここでは小売ビジネスの優れたブランドストーリーの事例を専門家にヒアリングし、以下にまとめました。
TOMS
フットウェアとアクセサリーを販売するTOMSのOne for Oneミッションでは、靴一足の売上ごとに、必要としている子どもに一足の靴を寄付しています。
ConwayとRosenはともにTOMSのソーシャルグッドに対する献身を認めています。「必要な子どもに物を寄付することがわかっているので、ここで靴を買うことは喜ばしい体験になります」とConwayは述べています。
このミッションは、ソーシャルプルーフを踏まえた独自のマーケティングポジショニングも可能にします。「ユーザー作成コンテンツがブランドの中心にあり、支持顧客による巨大なコミュニティが存在しています」とConwayは説明します。顧客はTOMSの靴を買うことで、社会的に良いことをしている体験をシェアしたくなるのです。
「お金を稼ぐことだけではなく、還元することが大切でした」とRosenはいいます。「それが高品質の商品と組み合わされ、ストーリーを一貫して打ち出すことで、熱心なファンと強力なブランドが得られるのです」
Burt’s Bees
スキンケア商品を販売するBurt’s Beesにはミッションと価値への強いコミットメント意識があり、すべての人が見られるようにそれをコーポレートサイトで発信しています。「Webサイトではセクション丸ごとを使って、だれのために、何のためにブランドがあるのかを語っています」とConwayは説明します。
Burt’s Beesでは明らかにブランドアイデンティティをドキュメント化していて、会社のカルチャーに浸透しているようです。自然由来でエコフレンドリーな商品へのコミットメントこそを、彼らの顧客は支持しています。
DevaCurl
世界中のサロンでDevaCurlのヘアケア商品を見つけることができるでしょう。商品はすべてカーリーヘアの女性のために開発され、ブランドストーリーもそこに立脚しています。
彼らのページを訪れると、会社のタイムラインを見ることができ、そこには健康的にカールをケアする方法を見つけるまでの女性たちの行程が記述されています。そしてカールアンバサダーたちがこのブランドストーリーを強化しています。
DevaCurlは中核となるターゲットオーディエンスを本当に理解していて、そこに当てはまらない顧客を遠ざけることも厭わない姿勢が伝わってきます。
Coca-Cola
コカコーラは強力なソーシャルグッドや環境的なミッションをもっていませんが、広範なターゲット市場に響くブランドストーリーを展開しています。「コカコーラはただ甘い炭酸飲料を売っているのではありません」とConwayはいいます。「彼らが大切にしているのは、幸せ、友情、そして楽しさです」
コカコーラには一貫性があります。「彼らはフェイスブックページから広告キャンペーンに至るまで、すべてのメディアで一貫したメッセージを発信しています」とConwayは説明します。「色あせないデザイン、フォント、イメージ、カラーリングはすぐにコカコーラと認識できるものになっています」
Lucas Candies
Conwayはニュージャージーを拠点とするチョコレートメーカーのLucas Candiesに直接働きかけ、彼らのビジネスを大きく変えることになったブランドストーリーを開発しました。伝統的なレシピをもつギリシャ移民の100年を超える歴史の物語を、チョコレートショップはまだ語ってきていなかったのです。
ロゴ、商品パッケージ、Webサイト、写真、メッセージ、商品説明を刷新して、ストーリーを新しく語り直しました。「その結果、Today Show、CBSニュース、コスモポリタン、Forbesなどのナショナルメディアに取り上げられました」とConwayは語っています。
あなたのブランドストーリーを語りましょう
ブランドストーリーの作り方を理解できたら、次はあなたが自分のストーリーを語る番です!
強力なブランドストーリーを感じさせる小売ブランドは何ですか? あなた自身のブランドストーリーはどんな内容ですか?ぜひ考えてみてくださいね。
よくある質問
ブランドストーリーとは何ですか?
ブランドストーリーはなぜ重要なのですか?
ブランドストーリーはどのように作れば良いですか?
良いブランドストーリーの事例を教えてください。
原文:Alexandra Sheehan 翻訳:深津望