皆さまのネットショップへのアクセス数は十分にあり、コンバージョン率も良好。それにもかかわらずまだ不安要素があるとしたら、注文額が低いことではないでしょうか。
事業が成長するに連れてモニターしていくべき、平均注文額(AOV)と呼ばれる指標があります。小売の世界では平均客単価と呼ばれているものです。従来AOVは、増収や広告費対効果の最適化を図るために、ビジネスオーナーの方々が改善を試みる数値の一つです。その仕組みは至って簡単に聞こえるかもしれません。顧客が一回の注文ごとにより多くの金額を使ってくれれば、収入が増える…ということですよね?
残念ながら現実はそんなに単純ではありません。
他の指標と同じようにAOVにも欠点はあります。ここからは、AOVをどう解釈すべきかを考え、収入だけでなく利益率を向上させることにつながるAOVの改善方法について紐解いていきます。
平均注文額(AOV)とは?
一つの仮定を使って見ていきましょう。皆さまのショップが100件の注文から20万円の売上を得たとします。その時の平均注文額は2,000円です。これは平均して、一人の顧客が一回の購入につき2,000円を使ったことを意味しています。Shopifyをお使いの方は、この数値をご自身の顧客レポートの中で確認することができます(レポートはこの他にも多数用意しています)。
従来のやり方では、平均注文額が2,000円だとわかっていれば、顧客にそれ以上の金額を使ってもらうことに焦点を当てます。例えば、2,500円以上の購入で配送無料サービスを提供すればこれを実現することができますし、平均客単価を上げるためにはよく使われている例です。もちろんこのようなサービスを提供して増収を図ることはできますが、利益率を高めている訳ではありません。
平均注文額のより優れた解釈
Common Thread Collectiveというマーケティング代理店の共同設立者であるテイラー・ホリデー氏は、事業成長の指標として活用するAOVの限界に早いうちから気付いていました。
「統計学において、中央傾向(平均値、中央値、最頻値)に関する言い習わしがあります。それは『中央傾向の指標はどれもベストとは言い難いが、一つの指標だけを使うことが最悪なのは明らかだ』というものです」とホリデー氏は言及しています。
また、「平均」注文額や客単価を使うと、顧客の購入傾向の一部だけしか見ることができません。注文額を増やしたいのであれば、以下で示した中央傾向のすべての値を考慮するべきだとホリデー氏は提案します:
- 平均値(Mean):すべての注文の平均額(平均注文額(AOV)や平均注文単価)
- 中央値(Median):すべての注文の真ん中にある金額
- 最頻値(Mode):最も頻繁に発生する注文額
以下では、これがネットショップの戦略にどう影響するのか、デモ用ショップのKinda Hot Sauceを使って実質的な例を紹介します。
上のグラフは、注文平均値、中央値、最頻値を表示した注文頻度のヒストグラムです。平均値(Mean)の24ドルが、最頻値であるMode(最も多く注文があった金額)の15ドルよりも大幅に高いことがわかります。また、数件の高額注文が平均値を上昇させています。
自动阀に効果を発揮する戦略を展開したいならば、24ドルの注文ではなく、最頻値の注文を増やすことが最善の方法であるとホリデー氏は言います。Kinda Hot Sauceで最も頻繁にある注文は15ドルの商品。ホリデー氏曰く「全体的な客単価に影響を及ぼす戦略を考えるならば、まずこれらの注文のどこにアップセルを仕掛けるべきかを理解することから始めるべきです」
「全体の収入を増やすための出発点として、モード値、つまり最も頻繁にある注文額に着目してください」
これは、AOVを監視することは重要であるものの、それだけを業績の判断基準にすべきでないことを示唆しています。それは健康的な生活を送りたいがために、カロリーの数値だけに固執しているようなもの。実際には摂取しても良いアボガドなどの高カロリー食品もあれば、白砂糖などの悪影響を及ぼす食品もあります。健康のためには、良いカロリーよりも、悪いカロリーを減らすことの方が効果的です。
また、全体の収入を増やすための出発点として、モード値、つまり最も頻繁にある注文額に着目してください。それを念頭に置きながら、多くのビジネスオーナーやコンサルタントにより実践されてきた5つの手法を見ていきましょう。
平均注文額・平均客単価を増やす5つの方法
- 無料配送サービスやギフト提供時の最低発注額を設定する
- セット販売やパッケージ商品を提供する
- 補完商品のアップセルやクロスセルをする
- 顧客ロイヤルティプログラムを設定する
- 簡単な質問に対応できるチャットサポートを提供する
1. 無料配送サービスやギフト提供時の最低発注額を設定する
無料配送サービスはありきたりだと感じるかもしれませんが、より多くの購入を顧客に促すには依然として非常に効果的な手段です。しかもShopifyなら無料配送サービス設定は簡単にすることができます。
最低発注額を算出するためには、まずモード注文額(最も頻度の高い注文額)を基準とします。例えば、ほとんどの注文額が35ドル付近であれば、50ドル以上の注文に無料配送サービスを提供することが妥当でしょう。
コンサルタントのエーロン・ザコウスキー氏は、最低発注額をAOVよりも30%高く設定することを提案しています(ただし、このブログ記事ではAOVではなくモード注文額の使用を推奨)。ここでの目標は、できるだけ多くの顧客に、配送が無料になる金額を満たすのは簡単だと感じてもらい、全体の売上を伸ばすことです。しかし最低注文額を高く設定しすぎるとカート落ちするリスクが増えてしまうので注意してください。
さて、Kinda Hot Sauceの例に戻りましょう。24ドルのAOVを基準にして、無料配送サービスの最低注文額を35ドルに設定したとします。この場合、注文額が15ドル前後の顧客のほとんどは、おそらくカート落ちしてしまうでしょう。注文額が低い顧客を排除したい場合には非常に効果的な戦略だと言えますが、そう願うショップオーナーはどこにもいないと思います。
無料配送サービスの代わりに提供できるのが、一定の注文額を満たした場合の割引です。例えば、注文額が50ドル以上に達した場合には、10ドルのクーポンを提供するというサービスです。もしくは、50ドル以上の注文額に対して10%の割引を提供することもできますが、この方法では利益予測が難しくなってしまいます。
Kopari Beauty社では、最低注文額を満たした注文に対して無料ギフトを提供しています。また、このサービスに関するメッセージをカート内に表示しています。
アドバイス:最低注文額を満たした時のインセンティブをわかりやすく表示するために、ウェブサイト上のプロモーション・バーを使うことを検討してみてはいかがですか。
2. セット販売やパッケージ商品を提供する
より多くの商品を顧客に購入してほしい場合には、アイテムを個別に購入するよりもお得な「セット販売」がおすすめです。
セット販売を提供することにより、顧客の商品に対する知覚価値が高まります。また、必須アイテムを一通り揃えたセット販売は、ユーザーにとって非常に便利で喜ばれます。
例えばBioLite社は、キャンプ場での調理に欠かせないコンロと付属品をセット販売しています。セット販売することで、顧客は必要なアイテムを一度に揃えることができ、後になってから付属品を調べる手間を省くことができます。ショップとしても、一度に複数のアイテムを販売することができるのでより効果的です。
さらに、カスタマイズ商品やパッケージなどを注文内容に追加できるようにすれば、必要なアイテムだけをまとめて買うことができる、顧客独自のセット販売を提供することが可能になります。
アパレルショップのContrado社では、顧客自らマスクをデザインすることができるオプションを提供しています。より上質な生地を選んだり、好きなラベルを貼付したり、その他のユニークなディテールを追加したりすることができるため、合計注文額を増やすことができるのです。
また、オムニチャネル戦略の一環としてShopifyを利用している、ブラジャーを販売するLively社の例を見てみましょう。小売店における顧客の行動からアイデアを得たという創立者のミシェル・グラント氏。彼女は自身の経験から、カスタムフィットをした顧客の約90%が、2、3着のブラをまとめて購入することに気が付いたそうです。そのため、Lively社はオンラインでもセット販売を可能にし、ブラをまとめて購入する顧客にはささやかな割引を提供するようにしています。
「開始してから2週間で、セット販売が全体売上の50%を占めるようになりました。それが当社のAOVを飛躍的に上昇させることにもつながったのです」とグラント氏は語ります。
セット商品設定用のShopifyアプリ:ご自身のショップ機能にセット販売やカスタマイズ商品を追加することに関心のある方は、Shopify アプリストアにて多岐にわたる無料および有料のセット販売用アプリをチェックしてください。
3. 補完商品のアップセルやクロスセルをする
マクドナルドで良く聞く「ポテトも一緒にいかがですか?」というフレーズ。それと同じように、アップセル(顧客単価を向上させるための営業手法)とクロスセル(セットとして関連商品を勧める営業手法)もまた、長きにわたり実践されてきました。セット商品販売と同じように、アップセルやクロスセルも、購入を検討しているアイテムの付属品やアップグレード版を買うことを顧客にさりげなく勧めることです。
他の営業手法と同じように、これもやり過ぎてしまうと収穫逓減につながってしまいます。以下では、SuperLemon社のプリータム・ナス氏による、自身が手がけた何百件もの広告に基づいたアドバイスを紹介しています。あなたの商品販売戦略にぜひ役立ててみてください。
- 過度にクロスセルをしない。友人に勧めるようにさりげなく。「売りつけられた」とは誰もが感じたくないものです。クロスセルのニーズは、信頼する友人が何かを勧めてくれるような、役に立つ真摯な内容であるべきです。単純にショップの人気商品を勧めるのではなく、ユーザーのカートにある商品に見合う、付属品や補完品などの厳選アイテムを勧めるようにしましょう。例えば、ノートパソコンならマウスを、リモコンには電池を、といった感じです。
- 低価格のクロスセルを提供して購入見込みを高める。50ドル〜100ドルほどのアイテムを購入しようとしている人に、100ドルの商品をもう一つ買うように説得するのはとても難しいことです。でも購入しようとする商品を補う20ドル程度のアイテムであれば、比較的容易に説得することができるでしょう。
- 購入後のアップセルを試す。付属品をセット販売することによりコンバージョン率に影響を及ぼしてしまうことが心配ならば、購入後にアップセルを導入すればリスクは低くて済みます。ReConvertなどのアプリを使うと、どの商品を人々が抱き合わせて購入しているかというデータを見ることができます。その結果を見てから、同じような商品を組み合わせたセット販売を、購入前に提供すればいいのです。
顧客にクロスセルやアップセルをするShopifyアプリ:
Shopify アプリストアをチェックし,ご自身のショップに適した商品提案アプリを探しましょう。おすすめは以下の通りです。
- Zipify One Click Upsell:Shopify Plusをご使用の方向けアプリ。一回のクリックでアップセル広告を表示し、AOVを高めることが可能。
- Super Bump:ターゲットを絞った、購入後のプロモーションを作成するアプリ。
- Post Purchase Offers:アップセル広告や無料ギフトを含む、一回のクリックで表示される自然広告を、Shopifyショップに追加するアプリ。
- Post Purchase Promotions:購入後のアップセル自然広告などを通して売上を増加するアプリ。
- Ultimate Special Offers:チェックアウトの画面上で、一回のクリックで表示されるアップセル広告を作成するアプリ。
4. 顧客ロイヤルティプログラムを設定する
カミソリやシェービングクリームなど、何度も購入する必要のある消費財を販売している場合には、ポイントやロイヤルティプログラムの導入を検討してはいかがでしょうか。顧客ロイヤルティプログラムは、顧客との関係性を築いて、ショップに戻ってきてもらうことに役立つ既存顧客維持戦略です。
ロイヤルティプログラムは、顧客の優先傾向と連動していることが重要です。世界的パンデミックで先が見えない不況の中では、さらなる購入を促すために顧客に豪華なギフトを提供しても効果はないでしょう。
ティーンエージャーとそれより少し年下の子どもたちを対象にしたアクセサリーショップのClaire’s社は、最近になってキャッシュバックを提供するロイヤルティプログラムを開始しました(100ポイントで5ドルのキャッシュバック)。ターゲットである若い世代にとっては、たった1ドルでも非常に価値があることにClaire’s社は着目したのです。
ロイヤルティプログラムでポイントを稼ぐといったインセンティブを顧客に提供すると、AOVが大幅に上昇することが期待できるでしょう。
5. 簡単な質問に対応できるチャットサポートを提供する
チャットサポートと聞くと、一般的にはヘッドセットを装着し、問題解決に励むサポートスタッフを思い浮かべるのではないでしょうか。最近では、チャットサポートの専属スタッフを配置している企業の方がより多くの売上を上げていることがわかっています。Forrester社の調査では、カート当たりの売上が10〜15%も多かったそうです。
「チャットでサービスを提供することにより、顧客が抱いている質問にすぐさま対応できるようになりました。これは売上につながる可能性を高め、カート落ちを減らすことを意味しています」と話すのはSchmidt's Naturals社の創設者で『Supermaker:Crafting Business on Your Own Terms』の著者であるジェイム・シュミッド氏。シュミッド氏はチャットのことを、AOVを向上させる「フル活用されていない武器」と呼んでいます。
別の見方から言うと、チャットサポートは購買意欲のあるお客様に、商品を実際に購入してもらうことに高い効果を発揮します。なぜなら彼らは、商品を購入するために意図的にサイトに訪れているものの、「購入」ボタンを押す前に疑問を解決したいと思っている人たちだからです。
チャットサポートは、会計に至るまでしっかりとしたサービスを要する、特にマットレスや家具などの高額商品に使うと効果的です。オンラインビジネスでは、実にいろいろなことを顧客にまかせなければなりません。商品を自ら探してもらい、通常は現物を見せずにその代金を支払ってもらいます。そのため、商品レビューや口コミ、またその他の社会的な実証も大いに役立つでしょう。しかしチャットサポートこそが、取引を締めくくるために効果的であることは間違いありません。
「チャットサポートでサービスを提供することにより、顧客が抱いている質問にすぐさま対応できるようになりました。これは売上につながる可能性を高め、カート落ちを減らすことを意味しています」
さらに、チャットを通してバイヤーと瞬時につながることができたら、商品を一度販売するだけでなく、リピート販売を促進することも可能になるでしょう。
購入意思のある人により多く販売する
AOVの一番の利点は、すでに買う意欲がある人たちに焦点を当てることです。彼らは購買意思をもってサイトに訪れているため、すでにカートにアイテムを入れている場合もあるでしょう。あなたがすべきことは、顧客が関連性の高いアイテムを見つけ、購入できるように働きかけることだけです。
すでにあなたのサイトで取引したことがある人たちならば、関係性を強化するための障壁は少ないはずです。そのため、新しい顧客獲得に躍起になる代わりに、より多くの商品を購入してくれるであろう既存顧客とのビジネスを育んでみてはいかがでしょうか。
原文:Sara Yin イラスト:Gracia Lam 翻訳:クリンカース恵子