新型コロナウイルスの長期化によりEコマースへの注目がかつてないほど高まる中で、越境ECビジネスに参入する企業も増えています。その一方で、越境ECを始めるためのノウハウがなく、興味はあるのに始められない、という企業も多いことでしょう。
3回にわたる越境ECを始めるための完全ガイドの前編では、越境ECを始めるにあたってポイントとなる事項を、Shopifyのサイトを使って越境EC事業で売上を伸ばしている4社のインタビューを通してまとめました。そして中編では、越境EC事業で多くの会社が力を入れているアメリカ市場に焦点を当て、これら4社の米国市場での販売事情を中心に、プロモーション戦略の実態に迫りました。
最終回となる今回は、越境ECの運営で必要となる決済、配送、通関、保険など実際のオペレーションについて、4社の越境EC責任者の方々にインタビューしました。そして、最後に、今後越境ECを始めたい会社さんへ向けてのアドバイスもいただいています。
オペレーションの実務
インタビューは、和のテイストの洋服や雑貨を扱うMASTER CRAFTSMANSHIP、木工用具の老舗の倉重電動工具株式会社(以下、倉重電動工具)、ひのきを使った美容商品のhinoki LAB、ポップなアクセサリーや雑貨で知られるQ-pot.の越境ECサイトの責任者の方々にご協力いただきました。
決済
前編のインタビューで、多様な決済手段があることもShopifyのサイトを選んだ理由の一つと話していた会社があったように、どの会社もビザやマスターカードといった主要なクレジットカードでの決済を採用していました。また、ペイパルも決済手段に加えているという会社もありました。
4社いずれも、海外決済で過去にトラブルはほとんど発生していないそうです。
海外配送
従来、海外への配送として安価な手段は日本郵便のEMSでしたが、新型コロナウイルスの発生により、昨年春以降、アメリカを含む一部の地域への配送はほぼ止まってしまっていました。アメリカ宛てのEMSは、輸送費高騰に対応した追加料金を導入の上、2021年6月1日からようやく再開となりました。
EMSが停止していた期間のアメリカ向けの発送は、各社、FedExやDHL、ヤマト運輸を利用しています。EMSが利用できる国もあり、発送先によって運送会社を使い分けているケース、お客さんが運送会社を選択できるケースも見られました。
送料については、完全に購入者負担としている会社が多い一方で、一定金額以上の方の送料は無料にしている会社もありました。その場合、商品価格に送料もある程度含めておくことで、収支に大きな影響が出ないように調整しているそうです。
通関
越境ECでは商品の発送に際して通関書類の作成が必須となりますが、通関書類については、どの会社も特に問題を感じていないようです。
運送会社からの指示に従って電子申告を行ったり、Ship&coのアプリで通関書類を作成したりと、各社いずれも効率的に作業を行っていて、通関書類の不備などを起因とする通関時でのトラブルもほとんどない状況です。
関税は購入者負担となり、商品受け取り前に支払いが必要となります。過去に関税が高いとお客さんから問い合わせがあったケースもあるようですが、丁寧に説明して問題なく支払ってもらったそうです。
保険
海外を対象とした事業の場合、万が一の時のためにPL保険(生産物賠償責任保険)に加入することが望まれますが、現状、PL保険に加入している会社は多くありませんでした。事業がもっと大きくなってから考えたい、という声も聞かれました。海外での販売の場合、国内販売よりも訴訟リスクも高くなってきますので、万が一の時に備えてPL保険には事業を始める時に加入しておくことが望ましいですが、それなりの費用もかかりますので、なかなか難しいのが実態のようです。
未加入の場合のリスクも勘案しながら、各社で納得いく対応が求められます。
カスタマーサービス
カスタマーサービスに関しても、専門の部署を特に設けることなく、越境ECを担当している方々がカスタマーサービスにあたっているケースが多く見られました。Q-pot.は、Shopify Chat (注:現 Shopify Inbox)という無料のアプリを利用し、配送状況の確認など定型的な質問については、自動対応する仕組みを構築しています。また、洋服や指輪のサイズは国内と国外では異なるため、カスタマーサービスにこうした問い合わせがあった際には、その国のサイズを詳細に伝えるように徹底しているそうです。
対面でないビジネスだからこそ、丁寧なカスタマーサービスが顧客満足度の向上、さらにはリピーターの増加へとつながっていきます。
越境ECを始めたい方々へのアドバイス
3回にわたって越境ECを始めるための完全ガイドとして、越境ECで売り上げを伸ばしている4社にインタビューを行いました。最後に、4社の越境EC責任者の方々に、これから越境ECを始めたい方へのアドバイスをお願いしました。
MASTER CRAFTSMANSHIPからのアドバイスは、「まずはやってみること」
社長自ら越境EC事業の陣頭指揮を取り、3ヶ月に満たない準備期間で越境ECサイトを開設した経験からの言葉で、重みを感じます。倉重電動工具からも、「どこに需要があるのか分からないので、とりあえず始めてみること」が大事、とのアドバイスをいただきました。木工用品という商品の性質上、国内市場が先細りとなってしまっていた中で、インスタグラムで行っていた地道な投稿が海外の木工ファンの方々も目に留まり、海外からの問い合わせが増えたことが越境ECサイトの開設へと繋がったそうです。海外の方々にも好まれるおしゃれなサイトの構築など、越境ECには入念な分析が必要な部分もありますが、越境EC参入のきっかけは、もっと気軽なもので良さそうです。
越境EC歴10年以上を誇るQ-pot.からは、
「オンラインショップは自社ブランドを表現する場であるため、ブランドのミッションやコンセプトを明確にすることが大切」との言葉をいただきました
ロゴや商品ラベルをニューヨークのブランディング会社に委託するなど、ブランドイメージを大切にするhinoki LABは、「こだわった商品は必ず国境を越えるので、そうした自社のこだわりの商品やその商品への想いを越境ECで伝えていくことが重要」と語ります。インタビューの中編でも触れたように、独自性のあるもの、他では変えないものを販売し、越境ECサイトではそうした世界観を発信する、ということも越境ECで売り上げを伸ばすために忘れてはならないポイントです。
今回越境ECで売り上げを伸ばしている4社を見てもそうですが、各社それぞれ越境ECへの取り組み方は大きく異なっています。誰にも通用する普遍的な正解はない世界ですので、まずは一歩踏み出し、運営を行う中で試行錯誤を重ねて自社に合った方法を編み出していくことが望まれます。
現地法人を設立することなく海外へと販路を拡大できる越境ECは、大きな可能性を秘めています。今回のインタビューを通じて、各社の越境ECへの熱い想いや意気込みを感じました。この記事をきっかけに、越境ECについて漠然と感じていた不安や疑問点が解消され、越境ECに興味ある方々が後に続くことを願っています。