ギグエコノミー(英語:Gig economy)とは、組織が、短期間あるいは特定の目標やプロジェクトを達成するためにオンデマンドで独立した労働者を雇う市場経済を指します。ギグエコノミーで仕事に就く労働者をギグワーカー、ギグエコノミーで実施される仕事をギグワークと呼びます。
目次
- ギグエコノミーとは
- ギグエコノミーの市場規模、背景、要因
- ギグエコノミーの仕事の例
- ギグエコノミーのメリット・デメリット
- ギグエコノミーに関連して使われる用語と意味
- これからのギグエコノミー
- ギグエコノミーとは:質問と回答
ギグエコノミーとは
米国議会公共政策研究機関(CRS)はギグエコノミーを以下のように解説しています。
- ギグ(仕事)で提供者と消費者をマッチングさせる市場の集合体である
- オンデマンド商取引を支える基盤となっている
- 基本的なモデルでは、ギグワーカーは正式な契約を結ぶ
- 労働者はオンデマンド企業と契約し、サービスを提供する、あるいは顧客となる
- 発注者はインターネットを利用した技術的な方法でサービスを依頼する
- プラットフォームやスマートフォンのアプリケーションで、提供者を検索したり、仕事を指定したりすることができる
- オンデマンド会社が雇用するプロバイダー(=ギグワーカー)は、依頼されたサービスを提供する
- そして、その仕事に対して報酬が支払われる
WEF(世界経済フォーラム)は、イギリス政府がギグエコノミーを「ギグエコノミーには、短期的かつタスクごとの支払いで、プロバイダーと顧客間のマッチングを積極的に促進するデジタルプラットフォームを介した個人または企業間の労働とお金の交換が含まれる」としていると明示しています。
また、イギリスにはギグワーカーが500万人いると推定されています。
ギグ(gig)とは、ミュージシャンによる単発の演奏や小規模な演奏を指す英語のスラングです。ライブハウスなどで演奏される演奏や、ミュージシャンが集まって単発で突然始まるようなセッションのことをギグと呼ぶことが多いです。
語源は諸説あるため不明とされています。https://www.investopedia.com/terms/g/gig-economy.asp(英語)
ギグエコノミーのポイント
柔軟で変動的・流動的である
ギグエコノミー内では様々なことが柔軟です。労働者は自分の都合、例えばスケジュールやライフスタイル、自身のスキルに応じて仕事を選んで受注できます。発注者もプロジェクトやタスクベースで仕事に対して労働者を雇用できます。
仕事の種類が多様である
仕事の種類は多様で、特別なスキルがいらない仕事から専門性や免許を要する仕事など様々です。
情報技術が活用される
ギグワークは、オンライン上のプラットフォームを介して発注者と労働者がつながります。
ギグエコノミーの市場規模、背景、要因
(Unsplash: erik-mclean)
ギグエコノミーは、仕事の発注・受注を行うためのインターネット上でのプラットフォームの普及とともに用語と市場が一般化しました。
2009年頃から、北米でギグエコノミープラットフォームが生まれました。プラットフォームによって仕事をしたい人(労働者)と、仕事を依頼したい人(経営者や事業主、あるいは個人であることも)がスムーズに出会い、仕事の受発注が成立するようになりました。
ギグエコノミーの市場規模
世界のギグエコノミー取引は、2023年までに約4,550億ドルになり、年平均成長率(CAGR)17.4%で成長すると予測されています。
アメリカでは2021年の時点で約6800万人の労働者がフリーランスで働いており、フリーランスの数は2027年までに5700万人から8600万人に増加すると推定されています。
イギリスのギグエコノミーの労働力は2016年から2019年にかけて2倍以上の470万人となっています。
ギグエコノミーのプラットフォーム
ギグエコノミーで語られることが多いプラットフォームはUberとTaskrabbitです。この2つを含む、アメリカとフィンランドのギグエコノミープラットフォームを解説します。
UberとTaskrabbitはアメリカで生まれました。フィンランドは、スタートアップの世界最大級イベントSlushが誕生した国です。
ギグエコノミープラットフォームに限らず、ほぼ全てのプラットフォームはここ10年程度以内に各国のスタートアップにより生まれました。
アメリカのギグエコノミープラットフォーム
Uber
ライドシェアとフードデリバリーのサービスを主軸に事業展開をしています。ライドシェアサービスでは移動をしたい人と移動させることのできるリソースを持つ人(車と運転免許)のためのプラットフォームです。フードデリバリーのサービスでは、Uber EATSが配達員(ギグワーカー)のプラットフォームを提供することで、食事をしたい人と食事を提供できるレストランがマッチングしています。食事をしたい人は、食べたいものを届けて欲しい場所に届けてもらい、受け取ることができます。
Taskrabbit
フリーランスの労働者と、労働者に仕事を依頼したい発注者のためのプラットフォームです。清掃・移動・配達・便利屋などの仕事が主です。
Thumbtack
仕事を依頼できる地元の企業や事業主を検索・雇用できます。住宅リフォームから法律・税務、イベント関連の仕事を依頼したい発注者と、その仕事に従事できる労働者のためのプラットフォームです。
Home Adviser(Angi®)
住宅メンテナンスのニーズに対して、屋内外の仕事、住宅リフォーム、住宅リフォームに関連するその他の様々な仕事を依頼したい発注者と、それらに従事できる有資格の専門家のためのプラットフォームです。
フィンランドのギグエコノミープラットフォーム
Wolt
地域のレストランや食料品店、その他の地元のお店と、そこで買い物をしたいユーザーに商品を届けるためのプラットフォームです。ユーザーは購入した食事などを、希望する場所に届けてもらうことができます。ギグワーカーは、Woltに出店している商店の商品をユーザーに届ける配達員としての仕事を得ることができます。
sumpli
ギグワーカーが仕事を見つけることのできるアプリを提供しています。1日から数日単位などのスケジュールで組まれた仕事を探すことができ、企業もまた、単発の人手不足に対して手軽に求人を打つことができます。
Treamer
ギグワーカーは仕事を探すことができ、企業や仕事を頼みたい個人はギグワーカーを雇用できるアプリを提供しています。仕事に従事する期間は最大1日に限定されており、仕事内容は犬の散歩からグラフィックデザイン、工場などでの勤務など多岐にわたります。
droppX
企業に特急配送サービスを提供しています。ギグワーカーは配達員としての仕事を得ることができ、企業から配送先へ、工場や倉庫から配送先へなどの配送業務を担います。
ギグエコノミーの仕事の例
(Unsplash: rainier-ridao)
世界のギグエコノミーの58%を運送関連の仕事が占めています。
オンラインで完結する事務関連の仕事
事務アシスタント、受付、プロジェクトマネージャーなどはギグワーカーのプラットフォームで人材を見つけることができ、労働者は仕事をオンラインで完結できます。
クリエイティブワーク人材
グラフィック・デザイナーやコンテンツ制作者もギグワーカーのプラットフォームで人材を見つけることができ、労働者は仕事をオンラインで完結できます。
運送関連の仕事
荷物を運んで届ける、人を乗せて目的地まで運転するなど、運送運輸関連の仕事もギグワークで求人が出ています。
労働の支援
小売業の店頭販売員、飲食業のキッチンやホール業務なども繁忙時期・繁忙時のみにスポットで入れるギグワーカーを採用しています。
一般消費者の支援
家政婦、子供や高齢の家族のケア、ペットの世話、ハウスクリーニングや家のリフォームなどに従事するギグワークも多数あります。
ギグエコノミーのメリット・デメリット
(Unsplash: nick-morrison)
ギグエコノミーで労働者に依頼したい経営者・事業主
メリット
オンデマンドなので雇用のコストを抑えることができます。労働力や成果を必要とするときに必要なだけの雇用で済ませることができます。
また、正規雇用の労働者に用意しなければならない健康保険や有給休暇などを用意しなくてもいい場合があります。契約や待遇に関しては各国で様々な議論や判例が随時出ているため、「用意しなくてもいい場合がある」とします。
デメリット
ギグワーカーは柔軟性に重点を置いてギグワークを選び、各種類似プラットフォームを利用して条件の良い仕事を比較しています。他社と仕事内容が酷似しているにも関わらず他社に比べて条件が悪いと、労働者に選ばれません。
ギグエコノミーで仕事をしたい労働者
メリット
自分のスキルやスケジュールに合わせて柔軟に仕事を選択できます。いつどこで何をして働きたいか選択でき、興味がない仕事をする必要はありません。
またギグエコノミーの労働に限りませんが、高いスキルが求められる仕事や、仕事に対して遂行できるギグワーカーが少ない仕事は高給です。
デメリット
不当解雇に対する保護、冗長な支払いの権利、および全国最低賃金、有給休暇、または労働災害認定などを受ける権利がないことがほとんどです。
また、企業の求人はオンデマンドであるため、労働者が働きたいときに仕事があるとは限りません。労働者を選ばない仕事や他に依頼できる労働者が多い仕事は給与が低くなる傾向があります。
個人事業主としてギグエコノミーを活用する場合、各種納税や申告を全て自身で行う必要があり、短期的・長期的なキャリアパスも自身で推進しなければなりません。副業でギグワークに従事する場合でも、収入額に応じて確定申告などが必要となります。
ギグエコノミープラットフォームを活用する個人消費者
メリット
プラットフォームを利用する消費者は、ギグワーカーと消費者をつなげるプラットフォームが誕生したおかげで生活の利便性が高まりました。
- タクシーしか選択肢がなかったがライドシェアも利用できる
- 配達サービスを提供していなかったレストランの料理を配達してもらえる
- 紙の電話帳を開いて探すアクションが不要になり、インターネットで仕事を依頼できる
- 企業に依頼するしか選択肢がなかった開発案件を個人のコーダーに依頼できる
- CMでよく聞く業者に頼むしかなかった水道のトラブルを、近所の工務店に頼むことができる
利便性の向上と選択肢の増加により,時間や費用などのコストを抑えることができます。
デメリット
ギグワーカーの能力や意識には差があり、その影響を受けることがあります。例えばタクシー会社は従業員に社内の内装や接客のレベルなどを維持するよう教育しています。しかしライドシェアサービスの自動車は、ギグワーカーの自家用車かもしれず、内装や受け答えにギグワーカー毎の差がある場合があります。
ギグエコノミーに関連して使われる用語と意味
(Unsplash: claudio-schwarz)
シェアリングエコノミー
シェアリングエコノミーは物質的な物を共有する経済を指します。コワーキングスペースや共同リビングなどを有する物件、家具や家電、自動車、衣料品などが主な例です。
クラウドソーシング
クラウドソーシングは情報技術(IT)を利用して不特定多数に業務を委託することやそのプラットフォームを指します。
これからのギグエコノミー
(Unsplash: david-dvoracek)
アメリカにおけるCOVID-19の影響
COVID-19のパンデミックがギグエコノミーを促進しました。仕事が減った人や無くなった人たちがギグワーカーとして仕事に従事しました。
WEFは雇用主の50%が作業の自動化を加速し、80%以上が作業プロセスのデジタル化を拡大するとしています。
パンデミックにより無くなった仕事の中には戻ってこないものがあり、戻ってくる仕事には新しい働き方と新しいスキルが必要になります。そしてそのときに、正規雇用もしくはギグワーカーの雇用が発生するでしょう。
またシカゴ大学のハリス公共政策大学院とAP通信-NORC公共問題研究センターによる2020年の調査結果によると、COVID-19は食料品や料理配達サービスを利用するアメリカ人の人数にはほとんど変化を及ぼさず、しかし、配車サービスの利用を急激に減少させたとしています。
配車サービスを利用したことがある人のうち、63%が2020年3月以降サービスを利用していないと回答し、54%がCOVID-19の発生時に同サービスを利用することに不快感を覚えていると回答しました。
人と人が同じ時間と場所を共有する仕事についてはなんらかの変化が起きるかもしれません。例えば配車サービスの需要が少しずつ減り続け、今後自動運転を伴うモビリティ配車サービスなどが生まれ、法規制などが進み、実用化され、配車サービスの市場は大きく縮小するかもしれません。
中国
中国のギグエコノミーには配車サービス(ライドヘイリング)、食品・料理の配達、速達など他国でも広く普及しているサービスのほかに、列に並ぶ人、運転手(飲酒後の配車)、ボーイフレンド共有サービスなどがあります。
日本にはまだ存在していないギグワークのいくつかが、日本でもサービスが展開されるかもしれません。
インド
インド商工会議所連合会(Assocham)の2021年1月のレポートでは、ギグエコノミーの増加は、特に自動化と人工知能(AI)の導入によりビジネス変革を進めている企業によって大きく促進されていると報告されています。AIや自動化などのテクノロジーの利用が増えると新たな職務プロファイルが生まれ、企業は有能な人材を探す必要性に迫られるため、より技術的に推進するためにギグワーカーの数や雇用が増加するとしています。
FORTUNE INDIAは、ホワイトカラーの仕事もギグワークになり始めているとインドの大学院経営学校であるS.P.ジャイン経営研究所の経済学の教授が語ったことを掲載(英語)しています。
オーストラリア
2019年7月、CPAオーストラリアが会員と公認会計士を対象に行った調査によると、若い事務所ほど、今後5年間でギグワーカーへの依存度を高める可能性が高いことがわかりました。
例えば、設立8年未満の事務所の場合、調査対象となった事務所の48%以上が、年配の事務所よりもギグエコノミーに依存するようになると予想しています。
NFT
NFTアートの仕事を請け負うギグワーカーが存在しており、英国のサセックス大学の研究者は高値が付くNFTプロジェクトの多くが低賃金のアーティストやデザイナーに頼り作品が作られていることが当たり前になっていることについて指摘しています。
ギグエコノミーとは:質問と回答
(Unsplash: di-bella-coffee)
よくある質問
Q1: ギグエコノミーとは?
Q2: ギグワークとこれまでの単発の仕事にはどのような違いがありますか?
昔から受発注されていた派遣の仕事は、発注者・派遣会社・労働者・消費者で構成されていました。ギグワークは、発注者・インターネットプラットフォームあるいはその運営会社・労働者・消費者で構成されます。
派遣の仕事は労働に従事する期間や時間も契約内容に含まれることが多く、指定時間数、指定場所での身体の拘束が伴う仕事内容が多いものでした。ギグワークは仕事の成果や内容を提供し、労働時間数や勤務場所が指定されないことも多く、コーディングやデザインなどの情報通信技術の発達に伴い需要が増加した仕事が多くを占めます。
Q3: ギグワークは今後どうなるでしょうか?
世界のギグエコノミーの50%以上を運送関連の仕事が占めていますが、現時点ではギグワーカーの保有する車両やギグワーカープラットフォームが保有する車両を使う運送が主流です。しかし例えば、今後はドローンを使う運送が始まり、ドローン操縦のギグワークやドローンの車両メンテナンスのギグワークなどが新たに生まれるかもしれません。イスラエル運輸交通安全省は2022年2月、世界で初めて民間空域でのドローン飛行を承認しています。