ライブコマースは中国企業によって生まれたプラットフォームをきっかけに中国で巨大な市場に成長し、今後世界中で成長しつづけることが見込まれるECの新しい販売手法です。COVID-19のパンデミックを理由とする外出の禁止や自粛により、生活のオンライン化が進み、同市場の急成長に追い風になりました。新しい販売手法や買い物体験への理解を深めたい方はぜひ読んでみてください。
目次
ライブコマースとは
ライブコマースとは
ライブコマースとは、ブランドの発信者・配信者と消費者がリアルタイムでやり取りをしながら、ライブビデオを通じてオンラインで商品を販売する手法です。オンラインライブストリーム放送とECストアが紐付いています。
従来の通信販売番組との違い
消費者の使用ツール・購買のステップ
従来の通信販売番組は主に地上波テレビ番組として放送されています。消費者はテレビ機器と電話を使用します。テレビ機器で商品の説明動画を視聴しながら、画面で案内される電話番号に電話をしてオペレーターと通話をして購入、もしくはパソコンやスマートフォンでWebサイトなどにアクセスして購入を進めます。
ライブコマースは、消費者がIT企業各社が開発し提供しているライブコマースツールを使用することが多いです。消費者はライブコマースツールにアクセスすることのできるスマートフォンやタブレットなどを使用して、商品の説明動画を視聴しながら、商品を購入したい場合はそのまま画面上で即時購入ステップに進みます。
一方的か、双方向か
従来の通信販売番組は発信・配信側による配信を消費者が視聴する一方的な行為です。
ライブコマースは双方向な行為です。消費者は動画を視聴しながら画面をタップしてリアクションボタンを押したり、リアルタイムにコメントや質問を送信したりできます。動画配信者は可視化された視聴者の熱量を理解しながら配信できます。
動画配信側であるブランドや配信担当者が送信された視聴者の質問に回答するかどうかは配信側次第ですが、質問と回答は対話形式で実施されます。消費者は質問をすれば、商品の仕様をよりわかりやすく知ることができます。例えば、ECサイトにあるレビューは全て文章であり、それを読んで理解する力が求められます(参考)。しかしライブコマースであれば、視聴者が「ファスナーの開閉はしやすいだろうか?」「その化粧品のポンプの押し具合はスムーズだろうか?押しづらくないだろうか?」と疑問を抱いて質問を送信した場合、配信者がその質問に対して回答としてカメラの目の前でファスナーの開閉をしたり化粧品のポンプを押して見せたりすることで、視聴者はその場で疑問を解消できます。
世界のライブコマース事例とプラットフォーム
(Unsplash: chris-arthur-collin)
中国のライブコマース事例
中国:ライブコマースの誕生
ライブコマースは2016年5月に中国企業Alibaba社がTaobao Liveを提供したことで大きく注目を浴びました。
日本には初売りやサマーセール、ウィンターセールなどの小売購買文化があり、アメリカには5大セールと称されるイースター・独立記念日・感謝祭(ブラックフライデー)・クリスマスホリデー・ニューイヤー(新年)の小売購買文化があります。中国で有名な小売購買文化に、毎年11月11日の光棍節、通称「独身の日」があります。Alibaba社は2009年から「独身の日」セールを実施しており、その新ツールとして2016年にライブコマースが導入されました。
ライブコマースは、中国の独身の日における小売購買文化の定番ツールになりました。Alibaba社のTaobao Liveでは、2020年、独身の日にプリセールス(先行販売)キャンペーンツールとして使われ、最初の30分間で75億米ドルを売り上げました。この日にAlibaba社が出した実績は他に、流通取引総額約7.9兆円のぼったほか、国家郵政局のデータによると、11月11日には6億7500万個以上の小包が処理され、この数字は前年比26%増にのぼりました。
中国の有名なライブコマース配信者は「口紅王子」の異名を持つLi Jiaqi氏と「ライブストリームの女王」の異名を持つViya(本名はHuang Wei)氏の2名です。しかし後者のViya氏は2021年12月下旬に脱税で2億ドル以上の罰金を科されました。1億人以上のフォロワーがいた彼女のライブストリーミングとソーシャルメディアチャンネルは、それ以来閉鎖されています。
中国のライブコマース市場:これまでの数字と今後の予想
中国のライブコマース市場の価値は2017年から2020年の間に年平均成長率(CAGR)280%以上で成長し、2020年には推定1,710億ドルに達しました。中国で金融サービスを提供するEverbright Securities社によると、2019年のローカルライブストリーミングEC市場は約630億ドルであり、これは同じ年の中国のEC総売上高(7,230億ドル)のほぼ9%にあたります。市場はCOVID-19のパンデミックによって著しく成長しており、中国における売上高は2022年までに4,230億ドルに達すると予想されています(参考)。
中国のライブコマース市場:今後の変化
中国では急速に高齢化が進んでいます。2021年5月に発表された最新の国勢調査データによると、人口の18.7%にあたる2億6,402万人が60歳以上の高齢者です。ライブコマースで買い物をする50代以上の人数は年々増加しており、これまでに6,000万人以上の中高年がライブ配信中に買い物をしています。Taobaoによるとユーザーの24%が1970年代以前生まれで、中高年市場を対象としたTaobao Liveは毎日約1,000回行われています(参考)。
中国のライブコマースプラットフォーム
トップ3つのプラットフォームを紹介します。中国のライブコマース市場におけるシェアはTaobao Liveが最も多く、Douyin、Kuaishouと続きます。
1.Taobao Live(淘宝直播)
Alibaba社が提供するライブコマースプラットフォームです。
2.Douyin(抖音)
ショートビデオプラットフォーム「TikTok」で有名なByteDance社が提供するライブコマースプラットフォームです。
3.Kuaishou(快手)
北京快手科技有限公司が開発提供するモバイル向けショートビデオアプリです。同アプリ内でライブコマースを提供できます。
アメリカのライブコマース事例
アメリカのライブストリーミング市場は2021年には110億ドルに達し、2024年までに売上高350億ドル、アメリカの全ECの売上における3.3%を占めると予測されています。
アメリカの、テクノロジーを活用した在宅での買い物市場(ホームショッピング市場)は、1980年代にQVCやHSNなどのテレビショッピングネットワークが普及したことから始まっています。同国のホームショッピング市場は2021年から2026年の間に16.92%のCAGRを記録すると予測されています。
これまでにも存在していたホームショッピング市場は、COVID-19のパンデミックをきっかけに、安全で時間効率の良い買い物の選択肢として爆発的に拡大しました。
アメリカのライブコマースプラットフォーム
2021年3月に行われた調査によると、最も知名度の高いライブコマースプラットフォームはYouTubeでした。回答者の3分の1近くが好み、続いてFacebook、Instagram、TikTok、AmazonLiveが続きました(参考)。この調査結果は「知名度」という指標です。
アメリカ市場で展開する各プラットフォーム毎の、アメリカでのライブコマース市場の金額、プラットフォーム別の売り上げ、それらが市場に占める割合などの数字は、2022年4月時点で調査結果を見つけることができませんでした。わかり次第、当コンテンツに追加する予定です。
日本でのライブコマース
(Unsplash: marissa-lewis)
日本のライブコマース市場
日本のライブコマース市場の売上高、プラットフォーム毎の売り上げと市場におけるシェアなどは2022年4月時点で明確ではありません。
任意団体「ライブコマース推進委員会」が2019年にオフィシャルサイトを公開していますが、この団体による市場や業界に関連する数値なども公表はされていないようです。同団体の加盟企業には2022年4月時点で合計12社が掲載されています。掲載企業は株式会社Ankosoft、SBクラウド株式会社、株式会社 OVER D-LIVE、株式会社Candee、株式会社D2C dot、株式会社電通ダイレクトマーケティング、峰松 蓮、STARP株式会社、株式会社LockUPです。
日本のプレスリリース配信サイトである「PR TIMES」で「ライブコマース」と検索した結果、2022年4月時点で該当するプレスリリースは1440件存在しています。2022年4月時点で「今後、ライブコマース事業に参入する」といった主旨のプレスリリースが配信されている事例も散見されました。またここでは、ライブコマースに特化した会社が複数のプレスリリースを出していたり、ライブコマース事業を展開していてもPR TIMESを一切利用していない会社が存在していたり、と複数の可能性や要因があるため、日本のライブコマース市場やツールについて明確に結論づけることはできませんが、日本のECや小売市場でも手段としてのライブコマースが普及する可能性があります。
日本のライブコマースプラットフォーム
日本のライブコマースプラットフォームにはau PAY マーケットの「ライブTV」、LIVE AIR、Live kit、Live Shop!、SHOPROOM、SHOWROOMがあります(2022年4月時点)。
BASEライブとヤフオク!ライブは2020年3月にサービスを終了、Yahoo!ショッピング LIVEは2021年6月から順次サービスを終了しています。
日本のライブコマースに関連して
日本におけるライブコマースが禁止されている事例を紹介します。
2022年6月に開催が予定されている(当コンテンツ作成は2022年4月)、ヨコハマハンドメイドマルシェ2022ではイベント会場内でのライブコマース禁止が発表されています(参考)。禁止の案内内の文章では、マナーの問題が発生したことによる来場者からのクレーム・意見が多く寄せられたことを挙げています。
この事例のように,イベント主催者が禁止事項として明示することは市場にとって健全な処置ではないでしょうか。例えばテレビの取材などが中継で行われる場合は、事前の打ち合わせをもとに、最低でも4人程度はその場で中継業務に関わりながら、周囲の安全を確認しながら実施されます。
ライブコマース配信が、必ずしも撮影用スタジオで行われるわけではありません。ライブコマースの需要があるイベントなどの主催者は、日本でもライブコマースが行われることを前提に事前のルール作りなどを検討した方がいいかもしれません。複数人で安全確認をしながら行う、事前の申請制にする、配信者たった1名の自撮りなどはNGとするなどのルールを主催者が明示し、トラブルや事故防止策を講じることが求められるでしょう。
例えば他のイベントでも、ライブコマースを伴うトラブルなどが不安視されているようです(参考)。
ライブコマースのメリット・デメリット
(Unsplash: alexander-dummer)
ここでは、商品を購入する消費者側のライブコマースのメリットとデメリットを紹介します。
ライブコマースのメリット
気持ちが高まる要素が多い
従来のテレビショッピングよりも臨場感を感じやすい要素が多いです。
画面には配信者の動きと喋りが映り、視聴者のチャット文章、視聴者の感情をあらわすスタンプやその数や音などが響き、配信に関わる配信者と視聴者の興奮や気持ちが高まる要素が多数仕掛けられています。「他の視聴者が買うなら」、「こんなに多くの人が買っているなら」と、部屋でたった1人で配信を見ているだけでも、自分の周囲にたくさんの人がいてその人たちと一緒に購入をしているような一体感を持つことができます。
喋り方や話の内容が面白い配信者もいれば、喋りはぎこちないけれど専門的な知識を持っており聴いていると誠実であることがわかる配信者など、配信者それぞれの特色があります。それらの配信者が持つ特色と視聴者のリアクションがかけ合わさり、その配信に関わっている人たちだけのクローズドで親密な熱狂が生まれ、配信者も視聴者も気持ちが高まり、気分良く買い物ができます。
商品の使い方や使い心地がわかりやすい
ライブコマースの配信者はそれぞれの特色や専門性を有しています。例えば農場から採れたての野菜を紹介、港から採れたての海産物を紹介、服飾品を作っている工房から職人が配信、視聴者が「まるで自分みたい」と共感を覚えるようなごく普通の部屋から配信など。
専門性を有する配信者が配信者目線で商品を説明するだけでなく、視聴者から送られる質問チャットなど、消費者目線での質問と回答なども配信されるため、商品のスペック解説や商品の細部がわかりやすく、疑問点を解消しながら買い物ができます。
数タップで購入が完了する
ライブコマースでの買い物はスマートフォン・タブレットなどの端末画面を数タップするだけですぐに購入でき、配送の手配も完了します。
出かける準備をする、出かける、店員を呼んで質問をしたりスマートフォンで調べたりしながら選ぶ、決断する、購入する、持ち帰る、と移動などを伴う従来の買い物と比較すると、ずいぶん楽に買い物ができます。
ライブコマースのデメリット
動画を視聴できる十分な環境が必要
上りも下りもスムーズで、量に制限がなく、月額定額などの(従量課金ではない料金の)Wi-Fi回線を使用してください。
ライブコマースはリアルタイムでの動画配信です。ライブ配信の視聴に耐え得るWi-Fi回線が必要です。また、データ利用量などに制限がある、あるいは、データ利用量に応じた従量課金の場合は注意してください。ライブ配信のデータ利用量は多くなるため、月間の利用量にすぐに達してしまったり、従量課金の場合はデータ利用料金の請求が高額になる可能性があります。
また、スマートフォンやタブレットのスペックが最新に近いもの、ソフトウェアも新しいものほど動画視聴がスムーズにできます。
紹介される商品が広告のことも
ライブコマースに限りませんが、配信者が好きな商品を好きだからこそ紹介・販売している場合と、配信者がメーカーなどと契約し、広告として商品を紹介・販売している場合があります。広告の場合、多くの配信者が広告であることを明言します。
熟慮せず勢いで購入してしまうことも
ライブコマースの特長は臨場感や熱狂です。自分のリアクションが表示される、質問が読まれて回答される、他の人が購入している量や金額がわかるなど、配信者と視聴者の興奮が高まる仕掛けが多数あります。特別な祝日だから開催するセールですよ、あと何分でセールが終了しますよ、などその時だけの限定感で気分が高まり「つい買ってしまった(実際は買わなくてよかったかもしれない)」ということも起こります。予算に合わせて買い物をしたい人は、ある程度冷めた気持ちや俯瞰する視点で視聴した方がいいでしょう。
ライブコマースを実施する方法
(Unsplash: paul-einerhand)
配信者としてライブコマースを行なう方法を紹介します。
配信するプラットフォームを選ぶ
すでに固定ファンがいる人や自分を取り巻くコミュニティや経済圏がある人は、自分が配信しやすいプラットフォームを選ぶといいでしょう。
視聴者を作るところから始める人は、視聴者がすでにいる、新しい配信者の登場を待っている固定視聴者がすでに一定数いるプラットフォームを選びましょう。
配信環境を整える
上りも下りもスムーズで、量に制限がなく、月額定額などの(従量課金ではない料金の)Wi-Fi回線を使いましょう。ハードウェアもソフトウェアも、動画撮影に適したものを使用します。
撮影環境を整える
撮影場所の明暗に応じて照明の数を増やす、明るくなりすぎないように場所を選ぶ、顔色が明るく見える色の服を着るなど、撮影に適する各種環境を整えます。
視聴者を集める
動画配信の日時や視聴方法をSNSなどで予告します。当日も「あと●時間でスタート」、「●時から配信します」など、しつこくない程度の告知をして、視聴者にリマインドします。
必要であれば練習などをする
自分で理解していることと、全くわかっていない人に良さを伝えることやわかるように説明をすることは異なります。
例えば大きさをわかりやすく説明する時に、「縦が●cmで横が●cmですね」と言われてもよくわかりません。500mlのペットボトルを横に並べる、A4のコピー用紙の上に置いて見せるなど、視聴者がイメージをしやすい工夫をすると伝わりやすいです。
配信後は必要に応じて振り返る、数字の分析などを行なう
配信準備、配信内容、売り上げた結果など、必要に応じて分析をすることで次回以降の配信に生かすことができます。
ライブコマースとは:質問と回答
(Unsplash: libby-penner)
よくある質問
Q1: ライブコマースとは何ですか?
Q2: ライブコマースとテレビの通販番組はどのように違うのですか?
消費者は動画を視聴しながら画面をタップしてリアクションボタンを押したり、リアルタイムにコメントや質問を送信したりできます。動画配信者は可視化された視聴者の熱量を理解しながら配信できます。
Q3: ライブコマースについて知っておくべきことは他にありますか?
ライブコマースは、中国の独身の日における小売購買文化の定番ツールになりました。Alibaba社のTaobao Liveでは、2020年、独身の日にプリセールス(先行販売)キャンペーンツールとして使われ、最初の30分間で75億米ドルを売り上げました。この日にAlibaba社が出した実績は他に、流通取引総額約7.9兆円のぼったほか、国家郵政局のデータによると、11月11日には6億7500万個以上の小包が処理され、この数字は前年比26%増にのぼりました。
中国のライブコマース市場の価値は2017年から2020年の間に年平均成長率(CAGR)280%以上で成長し、2020年には推定1,710億ドルに達しました。中国におけるライブコマース市場の売上高は2022年までに4,230億ドルに達すると予想されています。
中国では急速に高齢化が進んでいます。ライブコマースで買い物をする50代以上の人数は年々増加しており、これまでに6,000万人以上の中高年がライブ配信中に買い物をしています。Taobaoによるとユーザーの24%が1970年代以前生まれで、中高年市場を対象としたTaobao Liveは毎日約1,000回行われています。