Eコマースの未来はすでに到来しています。とはいえ、古い問題はいまだに変わらずにあり続けています。例えば、売る場所や、購入と利益のバランス、オーディエンスの構築、そしてAmazon。先手を打つことは重要ですが、事実と流行を見分けることは簡単ではありません。
この記事を作成するにあたって、わたしたちは数ヶ月かけて新しいものと古いものを含めたトレンドの選別をおこない、現在のECを取り巻く状況を形成している要素を明らかにしました。
エゴではなく、データを優先する
SNS、マーケットプレイス、実店舗など、チャネルの急増は「すべてに対応しなければ…」と不安になるのと同時に、実は見掛け倒しだったりもします。すべてのチャネルに手を伸ばそうとせず、しっかりと選択をすることが大事です。選択するために次のような基準を設けましょう。
(1)あなたのお客さまがすでにいる場所
(2)あなたがそこに価値を付加することができる
(3)費用対効果が高い場所
それぞれの場所で、データが鍵を握っています。
「小売業界は、ある種のとても自然なエゴに満ちています」とRhoneの共同創設者であるNate Checkettsは言います。「だれもがあなたにこう言いたがります。『わたしたちの店舗が東京にオープンしました!そしてパリ、ロンドン、ニューヨーク、それからLAにも!』D2Cブランドがどうやって小売にアプローチしているかというと、もっとデータドリブンです。わたしたちがオープンしたすべての店舗は、オフラインだけではなくオンラインでも顧客ベースを構築しています。」
オンライン、これはつまりビジターがどこから来て何をしたかを理解することを意味します。Google アナリティクスなどのツールをGoogle Data Studioと組み合わせて使用し、収益性の優先度を測りましょう。これにはShopify ストアに標準搭載されているストア分析機能を活用できます。
オフライン、それはオーダーがあった地域、都市、近隣情報を識別するために、受注パターンを追跡することです。これはもっともうまみのある土地を明らかにします。ポップアップイベントなどの対面式のイベントの最中や事後にオンライン売上がどれだけあるかをモニタリングすることは、現地の収益の影響を測るうえで重要です。
言い換えると、マルチチャネル、オムニチャネル、O2O(online-to-offline)を別個の戦略と考えずに(それぞれ一度に習得することが求められます)、数字によって裏付けられたベストな顧客体験を提供しているチャネルに目を向けるべきなのです。
マルチチャネルEコマース(左)は、顧客が時間を費やす場所でのネイティブな購入オプションを提供し、オムニチャネル(右)は、それらのタッチポイントを調和させます。
Eコマースの例では、Pura Vida BraceletsがEメールとインスタグラムをおもなチャネルとして使い、マイクロインフルエンサーと紹介に焦点を当てることを選択しています。その紹介プログラムを改良したあと、ブランドは110,000人におよぶ「セールスパーソン」の軍団を集めています。これは紹介による売上を前年比で300%アップさせ、平均注文額を11%引き上げました。
ゴールから始め、顧客維持を最初に考える
顧客をめぐる戦いは新しいものではありませんが、激しさを増しています。David PerellとNik Sharmaはこの袋小路について要約しています。「DNVBs(digitally native vertical brands)は、同じプラットフォーム(FacebookやGoogleなど)における同じ顧客を奪い合っています。広告スペースは限られているわけですから、顧客獲得費用は高くなります。企業が大きくなるにつれ、顧客1人当たりの獲得コスト(CPA)も上がります」
ほかの原因が関係している面もありますが、この戦争は購入にいたるすべての道に関わります。初期のFacebookでシニアエグゼクティブを務め、現在はSocial CapitalのCEOをしているChamath Palihapitiyaは、ベンチャーキャピタルの1ドルあたり40セントが顧客獲得に費やされていると推測しています。過去5年においてフェイスブックのCPCは612.5%上昇しています。またフェイスブックのカタログセールにおけるCPMは店舗に訪れておこなう購入よりも645%高くなっています。単純にいうと、あなたの商品を買いたい顧客を獲得することは、ふつうのビジターを獲得するより高価になります。
StatistaとMerkleによるデータ
逆説的ですが,リテンションは新規顧客獲得より前におこなわれる必要があります。高額となる新規の獲得費用をまかなう唯一の道は、顧客生涯価値を高めることです。
これは、戦略的にロイヤルティプログラムをあらかじめ組み込んでおくことを意味します。そうすることで、簡単に使えて意味のある報酬を最初から利用できるわけです。こうしたプログラムはたんなる取引ではなく、エンゲージメントへのインセンティブがあるためコミュニティの構築にも役立ちます。熱心なファンがユーザー主導コンテンツやレビュー、紹介などを通じてあなたのことを売りこむ(あなた自身が売るのではなく)機会を得られるよう力を貸しましょう。
サブスクリプションモデルは、もう1つの攻撃手段です。昨年、Hubbleはコンタクトレンズのサービスを約30億円の売上にまで成長させました。2017年には、Native(サブスクリプションベースのD2C天然消臭剤)がP&Gに100億円近くで買収されました。Wilson Hungは以下のように説明します。「高い平均注文額とマージンをもっていて、定期購入に適したブランドは、ペイドメディアを優先利用することで拡大する戦略にフィットします」。サブスクリプションは企業の売却額をとても引き上げます。
しかし、すべての戦術のなかで最も価値がある「お客様」を無視することだけはやめてください。生涯価値を上げて獲得コストを下げるには、製品ではなく人を、成長の中心に配置する必要があります。
それから、顧客獲得へ
85%の商品検索は、AmazonかGoogleからスタートします。ここに驚きはないでしょう。驚くべきは、大企業でさえもオンライン検索からの顧客獲得法をマスターしていないことです。Amazonは脇においておくとしても、SEM(検索エンジンマーケティング)の根本的な罪は、対象を広げすぎてしまっていることです。ROAS(広告費用対効果)は粒度が大事なので、幅を広げすぎてしまっては台無しです。
まず、検索クエリ、広告、ランディングページを可能な限り一致させましょう。ユーザーが検索エンジンに入力したものと一致する(もしくは明らかに類似する)広告コピーやランディングページが表示されなければいけません。ここで最も重要なのはユーザーが最初から最後まで直線的な体験をするというです。
Rothy'sは買い物客の検索に合わせて異なる広告とランディングページを配信します
2つめに、キャンペーンは効率的な予算と入札のために別々に分けるべきです。(1)高い購買意欲-「紫色 女性 靴 購入」-(2)情報探しの意志-「立つのに快適 女性 靴」-(3)不明な意志-「女性 靴」-これらを分離します。このような切り離しは、ブランド(あなたの会社名や商品名が含まれる)キーワードとノンブランドキーワードの対比においても重要です。
3つめに、除外キーワード(設定キーワードに関連するもののあなたの商品には関係ないワードを広告表示対象から外す)を注意深く観察しましょう。カジュアルシューズやドレスシューズの場合なら、「バレエシューズ」や「通勤シューズ」を探している人が広告を受け取らないように、スポーツやダンス関連用語を除外キーワードに含めることができます。
除外キーワードをチェックしていないと、とくに商品フィードに依存しているGoogle Shopping(Eコマースサイトのバックエンドから商品名や説明文を抽出している)において、ROASが低下します。最後に、他社の社名や製品名をターゲットとした競合キャンペーンを試してみて、すべてにおいてテストと改良、そしてデータ追跡をおこなってください。
オーガニック検索は、変わることなく王道です。適切に商品説明をフォーマットできるよう、SEOをマスターしましょう。ThirdLoveの広告とオーガニック検索への取り組みは、これらの方法をきれいに結びつけています。「自宅でブラを試す」というフレーズで、ThirdLoveは広告の1位とオーガニック検索の2位・3位をとっています。
キャンペーンは通常より3倍高いコンバージョンと70%の維持率を実現しました
まずコンテンツ、つぎに取引
売り込まれることは、だれも好みません。楽しむことは、だれもが好きです。それ以上に、わたしたちは何かに所属することが好きです。人間はもともと関係性があり、なおかつ自己中心的です。そこにストーリーテリングの真髄があります。すぐれたコンテンツはわたしたちを、自分より大きな何か、そして自分が何になれるのかというビジョンへと結びつけます。これを実現できるブランドは、商売だけでは不可能な方法で、消費者の生活に溶け込むようになります。
Young&Recklessの創設者であるChris Pfaffは、次のように言っています。「本当に意味があるコンテンツをもっていれば、人は自らクリックしてくれるし商品を見てくれるのだとわかりました。ただ『この写真かっこいいでしょ?』と言うのとはまったく逆です。ブランドメッセージを受け入れてもらい、人をインスパイアしたりモチベーションを与えたりすれば、彼らは商品を買ってくれるでしょう」
もともとは卸売だったY&Rは、4年前にオンラインに移行しました。今日、デジタルはたんなるマーケティングチャネルの1つではなく、オーディエンスをうみだす工場となっています。Y&Rではソーシャルが全トラフィックの半分を占めていて、会社はYouTubeに一番賭けています。その理由は、「人は積極的に関与するためにYouTubeを観るからです。InstagramやFacebookだと、もう少し受動的な姿勢になります」
The Hundredsの例も見てみましょう。メディアが第一、商品は二番手というアプローチです。「わたしたちはただのTシャツブランドではありません」とBobby Hundredsは言います。「これはコンテンツであり、カルチャー、そしてコミュニティです。Tシャツはグッズに過ぎません」。また、The Hundredsの編集長Alina Nguyenはこのように言っています。「The Hundredsの特質は、個人レベルのストーリーテリングにあります。底流にあるストーリーこそが、わたしたちのブランドが表現するもので、アパレル業界でのコラボやブロジェクトの基礎となっているのです」
ほかのモデルも存在します。Morphe BrushesとGlossieは、インフルエンサーを介してオンサイトとオフサイトでUGC(ユーザー作成コンテンツ)をキュレートし、ユーザーによるビデオ、画像、レビューを彼らのサイトやソーシャルメディアにのせています。一時的タトゥーメーカーのInkboxは、Facebook Messengerで宣伝されているtrend reportsに投資し、YouTubeで定期的にFAQに答えています。
コンテンツがどんな形式であれ、製品の売上や利益を促進するために確実に最適化するようにし、オーディエンスを楽しませることを忘れないようにしてください。
「借地」には、ご注意
事実:Amazonマーケットプレイスの収益が企業の店舗売上の2倍になり、すべての商品検索の半分はアマゾンから始まり、広告はもっとも成長の早い武器であり、AmazonはDTCブランドへのラブコールを積極的に送っている。
結論:すべての企業は彼らを無視できない。しかし例外として、あなたはそうすべきなのかもしれません。
Amazonに関して、お金の動きを追いかける以上に重要なことは、意図的な判断(商品リストに載せるべきかどうかを慎重に検討したり、Amazonと提携するかしないかを決めたり)を、Amazonへの健全な恐れをいだきながらおこなうことです。つまり、多くの販売業者のようにただのAmazon恐怖症になってはいけません。
本当の危険は、ビジネスゴールとそこへの到達方法(商品販売 vs ブランド構築)の乖離にあります。あなたとお客さまとの間を仲介するものについて念入りに考え、そのコネクションとデータを欲してください。メールアドレス、ソーシャルプロファイル、消費傾向、年齢やロケーションなどの属性情報など、そのすべてはAmazonがマーケットプレイスの売り手から隠しているものなのです。
答えは共生にあるのかもしれません。「Amazon広告がもっとも機能するための共生関係というものがあります。オートメーションよりも手動でやるべきです」とThursday Boots Companyの共同創設者であるNolan Walshは述べています。「すべての商品をAmazonに載せるわけではありません。不足しないのはベストセラー以上のものです」。UNTUCKitは古いスタイルのものを一掃するためにAmazonを利用し、Buzzfeedはコア商品のあるスタンドアローンサイトと、客寄せ用のAmazonをうまくミックスしています。
販売者からすると、アマゾンは流通と顧客獲得の両方をあわせもっているかもしれません。販売者が出荷することができれば、ブランド化された「箱開け体験」の自由度は増しますが、消費者を直接自社サイトに誘導することはアマゾンの規定で禁じられています。匿名希望のアマゾン販売業者は次のように言っています。「わたしたちにとって最大のドライバーとなっているのは、チャットボットです」
アマゾンは”注文のフルフィルメントと関連する顧客サービス”によるコンタクトを許可しているため,販売業者(アマゾンで3年運営してきた1億円以上のブランド)は出荷情報を使用してカスタムのフェイスブックオーディエンスを作り出します。「わたしたちは、このルールを自由に解釈しています」と販売業者は言います。「Amazonからのアフターメールを無視するユーザーも、結局問題を抱えていたりしますが、メッセンジャーでコンタクトできればすぐに解決可能ですし、彼らはそれでとても喜んでいます」。曖昧な線ではありますが、ポジティブなやりとりから考えてみれば、お客さまに直接対応することは自然の流れといえるでしょう。
Lean LuxeのCEOであるPaul Munfordにとって、この線はもっと明確です。「カスタマーエクスペリエンスのコントロールと、顧客との直接的な関係をあきらめるのであれば、あなたはほかに何をもっているというのでしょう?」とMunfordは言っています。「これは今日の最高のブランドにとって生命線であり、未来です。健全な囲い込みのエリアともいえます。率直な話、このパスにいるブランドであれば、Amazonを利用していることをまったく心配しなくていいと思います。ここではブランドが商品化されます。Amazon以外のマーケットプレイスも考えていません、結局お客さまとの間にべつのバリアーを築いてしまうだけですから。これは会社としての成果がどういうものかによって異なります」
Amazonが支持しているD2Cブランドにとっては、それは線というよりバリケードのようです。Andie Swimの創設者であるMelanie Travisは、「Amazonで売ることは、顧客中心ブランドには向いていません」とDigidayに語っています。「彼らは基本的に、わたしたちを1つのブランドから1つの商品へと縮小させたいのです。彼らはみないい人ですが、プラットフォームとしてはモンスターですね」
ネットショッピングの重要なトレンド
当然、トレンドをもっと追加していくことはできるでしょう。パーソナライズされたおすすめ商品とオンサイト検索は、ますます強力になっていき、マーケティングに関しては、Eメールが支配的ですが、チャットボットも増加中です。ネットショップのオートメーションにより、収益を改善しながら、使える時間を取り戻すことができます。そして、グローバルなEコマースの存在感がじわじわと増してきています。
喧騒と興奮のなかで何が重要かといえば、Eコマース業界を形成するトレンド(新しくても古くても)に投資すること、そしてそれ以外は無視することでしょう。