新型コロナウイルス禍において、オンラインでの買い物は今まで以上に市民権を得てきました。日本に比べ国土の広いアメリカではオンラインショッピングが普及していたものの、物理的に外出ができなかったロックダウン中からオンラインショッピングを始めた人が急増。ワクチンの普及とともに徐々に日常生活を取り戻してきたものの、オンラインでの買い物は引き続き行われて行くと予想されます。
パンデミック中にオンラインショッピングを強化した企業も多く、越境ECを行うブランドも増えてきました。仕事も買い物も、生活全体がオンラインで賄われるようになってくると、世界が格段に近くなった気にさえなります。さて、本記事では日本のおもてなしに心癒され、日本独自の自然素材に肌を癒されたヴィッキー・ツァイがサンフランシスコで創業したスキンケアブランド「Tatcha(タッチャ)」にフォーカスします。アメリカ人が思う日本の美や歴史、優れた素材など、日本での素晴らしい体験からヒントを得てスタートしたブランドは、2021年に里帰りするように日本に上陸をし、多くの人々を魅了しています。
越境ECを行う、これから目指すブランドが多い昨今。自分たちの強みを商品化、言語化しながらも現地市場にコミットした販売手法を見つけなくては日本とは異なる人種、文化をもつ国での成功は難しくなってきます。日本人がなかなか気づかない日本の魅力を体現しているTatchaのマーケティング戦略やローカリゼーションなど、オンラインビジネスはもちろん、今後越境ECを目指す事業者の方たちに向けたヒントが隠されているはずです。
パンデミックにより、自分の内面と向き合い癒しを求める人々
予期せぬ非常事態により、瞑想やヨガ、森林浴、クリスタルボールヒーリングなど、心と身体の健康を維持する“ウェルネス”というキーワードをよく耳にするようになりました。「ブルームバーグ」によると、昨年パンデミックが起こって以降、ローズクォーツやトルマリンなどのパワーストーン市場が急激に伸びていると報じた他、「ニューヨークタイムズ紙」もパンデミック中の占星術や占いに関する検索数が増加していると伝えています。
不安な時代だからこそ、誰かに寄り添いたいという気持ちや、内面を整え、心身をリラックスさせたい願う人々が増加しています。ビューティー市場に関しても、パンデミック以降、アメリカではメイクアップの市場は下降線を辿ったものの、スキンケアは横ばい、巣篭もり需要からボディケアやヘアケア、アロマオイル、キャンドルの売り上げは増加傾向しています。
越境ECも加速し、ローカリゼーションの重要性も認識
コロナ禍で越境ECも成長を続けています。昨年4月にはEMSが一時サービスを停止したことにより、一時混乱に陥りましたがDHLの健闘もあり、市場は確実に伸びています。アメリカでは前述した巣篭もり需要から昨年eBayが取引が過去最高を記録。売り手の75%が昨年副収入を得るために販売を開始したと言います。
越境EC、海外ローンチを行う際に欠かせないのがローカリゼーションです。コロナ禍において迅速な配送が需要なのは言うまでもなく、長きに渡りブランドのポジションを確固たるものにするには各市場に寄り添わせる形でブランドの伝えたいメッセージを届けなくてはなりません。アメリカと日本で見ても、市場は異なります。人口分布も、アメリカのボリュームゾーンは「ジェネレーションZ」なのに対し、日本は逆ピラミッド型で少子化、高齢者化が顕著。また、はっきりと物事を言う文化のアメリカでは日本人の「良いものを作れば言わなくても分かる」という考えでは伝わりにくく、ブランドのアイデンティティを言語化して伝えなくてはなりません。さらにはアメリカでは企業の理念や政治的立ち位置、社会問題への社としての立ち位置など、会社としてのステートメントに賛同すればその会社を支持する、商品を購入すると言う動きが強いのです。
「Tatcha」ファウンダーのヴィッキー・ツァイはアジア系アメリカ人ですが、日本文化が持つ美しさ、おもてなし、古来から伝わる独自の素材や美容の歴史に魅せられました。灯台下暗し、ではないですが、日本文化にどっぷりと浸かっているとなかなか気がつかない日本の良さを引き出し、Tatcha(タッチャ)として昇華させています。日本でのローンチを「里帰り」と表現している同氏ですが、日本文化が持つ繊細さや叡智、日本人が持つ機微をストレートに具現化することが逆に日本人の心に新鮮に写っています。
注目スキンケアブランド「Tatcha」にインタビュー
心身ともにリフレッシュを要していたファウンダーのヴィッキー・ツァイが日本を訪れた際にそこでの経験に感銘を受け、さらには長い間皮膚炎に悩んでいた肌が日本の自然素材を試したところ完治したことから2009年にブランドがスタート。現在では「ハダセイ-3™:Hadasei-3™」という発酵技術によって作り出された独自の成分を開発するなど、効果を実感できるスキンケアのラインアップが好評です。
今回はヴィッキー・ツァイとともに創業からTatchaのブランディングに携わっているオノデラ奈美 ブランド&カルチャーエグゼクティブディレクターに話を伺いました。
1.どのような経緯でTatchaブランドがスタートしましたか?
2009年のある朝、ヴィッキー・ツァイは目を覚まし、「私は幸せになる」と自分に誓いました。アメリカの企業で10年間働いた後、疲れ切った彼女は毎日ステロイドと抗生物質を必要とする急性皮膚炎に悩まされていました。台湾系アメリカ人であるヴィッキーは、ふとしたきっかけから京都にたどり着きます。そこで彼女は、美や幸福感にあふれ、調和のとれた文化に出会い、肌から魂まで癒されました。当時妊娠中だったヴィッキーは母親になるまでの数ヶ月間、自分の肌を変えてくれた日本の天然成分や古来から伝わる伝統に陶酔し、研究をしました。科学者や、芸妓さん、そして文化研究のアドバイザーを含んだチームと共に、京都からサンフランシスコまで、今日も続く学びの旅を始めることになります。Tatchaは、その学びの過程で学んだ知恵に対する賛美の気持ちから生まれました。
2.他のブランドにはない強みは何ですか?
すべての製品は東京にあるタッチャ 研究所で製造されています。ここでは一流の科学者たちが伝統を踏まえつつも革新的な製品を生み出しています。時代を超えた日本の植物成分の絶妙なバランスが、お肌に逆らう事なく肌に働きかけるのです。Tatchaのすべての製品の中には、ハダセイ-3™:Hadasei-3™と呼ばれるスーパーフード、アミノ酸、AHAの小さなシンフォニーが作用しています。二度、発酵させた米、緑茶、藻類からなるこの独自の複合体は、世界で最も健康的であると考えられている栄養豊富な日本の食生活に根ざしたものです。
3.ヴィッキー・ツァイはどのようにして日本の魅力に気がつきましたか?また、彼女から見た日本の魅力は何でしょうか?
ヴィッキーが初めて京都に訪れた時、ある観光運転手との出会いがありました。当時妊娠中だった彼女は、市内観光の途中で吐き気に襲われ、ホテルに戻ることになりました。眠りから覚めた彼女を待っていたのは、3枚の写真入りCDとあるメモ。そこには"あなたが見ることができなかった京都をお届けします"と書かれていました。その運転手さんは自分の家まで戻り、沢山の写真をCDに焼き付け、再び戻ってきてヴィッキーに届けてくれたのです。これこそ彼女が日本を大好きになった瞬間でした。会社員としての生活に疲れ、空虚な日々を送っていたヴィッキー。見知らぬ人からの純粋な優しさに触れ、深い感謝の気持ちを抱き、久しぶりに希望を感じたのです。
4.Tatchaが表現する日本の美しさを、日本のお客様にどのように楽しんでいただきたいですか?
文化や素材、そして自分たちが呼吸してきたライフスタイルに対して日本のお客様に誇りを感じていただきたいと思っています。それは、海外在住の日本人である私にも同じことが言えます。Tatchaの製品はすべてメイド・イン・ジャパンで、Tatchaを通じ、日本の知恵と調和を再発見することができます。Tatchaというブランドは両国に根ざしているため、両方の文化を表現しています。ブランドメッセージは常に同じで、私たちの製品はあらゆるタイプの肌に対応します。
ブランドが始まった場所に戻ってこられたことを光栄に思っています。私たちは常に、日本という国や人々、そして文化に対する感謝と尊敬の気持ちでいっぱいです。
5.アジアのビューティーブランドは現在、アメリカでどのようなポジションにあると思いますか?また、それは人々にどのように理解されていると思いますか?
従来、アメリカで展開している日本のスキンケアブランドは、その品質の高さで知られ、信頼されていましたが、そのほとんどは西洋ベースのスキンケア哲学に焦点を当てていました。Tatchaが発売された10年以上前、ヴィッキーが出会った小売業者の多くは、西洋のでは日本や東洋の美容に関心がないと言われたそうです。日本の美へのアプローチは、私たちの肌を癒し、魂に語りかけてくれました。Tatchaを通しての願いは、その哲学を他の人々と共有することです。パンデミック後の世界では、スキンケアにおいて日本の哲学や生き方を理解することがより必要になってくると思います。まだスキンケアに関して人々の理解が始まったばかりだと思いますが、私たちはその旅に同行できることを光栄に思います。
6.ブランドとして行なっている社会貢献はありますか?
新型コロナウイルスは、セルフケアに対する新しい視点と理解を私たちに与えてくれました。その結果、お客様は物質的なライフスタイルを簡素化し、より意味のあるものを手に入れようとし始めたと思います。Tatchaでは、お客様が肌と心の調和を見つけるお手伝いをし、お客様の幸福と世界の幸福にプラスの影響を与えることを目標としています。
また、子供たちへの教育活動を通じて、お客様の幸福と世界の幸福により良い影響を与えることを目指しています。2014年から子どもの識字率向上と女子教育のための非営利団体「Room to Read」と協力し、2025年までに4000万人の子どもに教育を届けるというミッションを支援しています。Tatchaの購入金額の大小に関わらず、Room to Readとの活動を支援しており、これまでに東南アジアやアフリカの少女たちに600万日以上の学校生活を提供してきました。私たちは、この変化を可能にしてくれたお客様に大変感謝しています。
7.ブランドとして今後目指す方向を教えてください
目標は、Tatchaが100年後も生き続けるブランドであり、スキンケアやRoom to Readの素晴らしい活動への支援を通じて、変化のきっかけとなることです。それまでの間、私たちは肌から心までお客様をケアし、創業者のヴィッキーが日本で出会った癒しの美をお客様と共有していきたいと思っています。